Vol.2「消費者」から「文化的創造者」へのシフト
【気候変動】

350.org
お金の流れで
より良い未来を実現するムーブメント

Interview
350.org Japan 古野 真 / 小野りりあん
written by 宍倉 栄


近年激しさを増す台風、そして夏の猛暑。私たちの生活を脅かす気候変動は、国際社会においてその危機が認知されながらも一層厳しい状況となっている。それに対して私たちは自らの生活環境を守る為に一人一人が状況を理解し行動を起こすことが必要だ。350.orgは気候変動問題に取り組む国際環境NGOとして、全世界188か国以上に広がるネットワークと連携し、多くの市民を巻き込み、より良い未来を実現する為のアクションを展開している。350.org Japan代表 古野 真さん、そしてモデルとして活躍しながら350.org ボランティアの小野りりあんさんから、自らが立ち上がった背景や活動の意義、そしてムーブメントを起こし多くの人を巻き込んでいく流れについてお話を伺った。


350.org Japan代表 古野 真さん


350.org ボランティア 小野りりあんさん

社会に対する「どうにかしなきゃ」の想い


-古野さんが社会問題に取り組まれたきっかけは何でしょうか。
(古野さん・以下敬称略)5歳でオーストラリアに移住しました。多様な環境でしたが、外国人はやはり人種差別を感じます。フットボールチームではアジア系メンバーは帰れなど、何かしら言われる。「公平性が大事である」と気づき、歴史や文化、格差、人権等の問題を考えるようになりました。社会を「どうにかしなきゃ」という想いです。
大学では政治、社会科学、環境を学びました。「キャンパスオープンデイ」の催しでアムネスティ等のNGOがブースを出していたことをきっかけに、様々なNGOの活動を学びました。そして学生の意見を大学に伝える学生の組合「Student Union」に参加し、環境代表として選出されました。在学中はノルウェーに留学し、卒業後は国際協力隊員としてカンボジアで地域おこしの事業をしました。その後、環境省(当時気候変動省)に勤め、気候変動に適応するインフラ整備などの国際協力事業を行いました。脆弱な国への影響を考えて、自分で担当部署を探してその仕事に就きました。南太平洋の国々は気候変動で大きな影響を受けます。例えば海面上昇により住めなくなる。雨の季節が変わることで水資源がなくなる。また沿岸地域の高潮、高波や台風で農作物や漁業は被害を受けます。そもそも気候変動は産業革命以来の先進国の経済活動によるもので、途上国はほぼ関与していないのです。当時の豪政府は先進国としての責任から近隣の国々への支援を行っていました。

-まずは自らが置かれた立場から、どうにかしなきゃと思われ、着々と実践されてきたのですね。公共事業で環境問題に取り組まれてからNGOにキャリアを移されたのはどのようなきっかけですか?
(古野)当時オーストラリアでは環境省の予算が政権交代によって半分になってしまいました。保守的な政権に変わり環境対策のプライオリティが低くなったのです。元の政権が負けた最大の原因は炭素税の導入でした。全ての化石燃料の利用に対し、CO2排出量に応じて負担を求めるものです。鉱業等を含む石炭、石油、ガス関連企業は収益に影響する為反発し、圧力をかけ、野党を支援しました。実際オーストラリアは農業が盛んな一方水資源が少なく、環境問題に危機感があるのに真逆の方向に進みました。公務員として産業界の影響は大きいと感じました。政治的、経済的理由でものごとが決められる、その状況から、中で活動するより「外を変えないといけない」と思ったのです。市民側から社会を変えることがどこまでできるか、自分としてはチャレンジでした。

国連は気候変動を食い止める可能性が非常に厳しいことを公表


-「外を変えないと」という危機感の背景を教えて下さい。環境問題はどのような状況なのでしょう。
(古野)1988年、約30年前、国連は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)を設立し、温暖化を防ぐため世界の科学者が大気中のCO2濃度をどこまで抑える必要があるかについて活発な議論を始めました。そのなか、アメリカの議会で初めて気候変動問題について警鐘を鳴らしたのは当時NASAの科学者James Hansen氏でした。彼は何百万年の地球の歴史を踏まえ、安全な地球環境を維持するため大気中のCO2濃度を350ppm以下に安定化させる必要があると発信しました。それが350.orgの名前の由来です。人類文明が始まった際はおよそ275 ppmでしたが、18世紀初頭から人類は石炭、ガス、石油を燃焼させて産業化しました。電気を使う、食事を作る、暖房を使うなど私たちが日々行っている多くの活動は、二酸化炭素を排出するエネルギーに依存しています。その影響で、現在大気中のCO2濃度はすでに400ppmを超えて、産業革命前と比べて地球の平均気温は1度上昇しています。気温上昇は近年になればなるほど加速しており、気候変動に伴う異常気象や洪水、巨大な台風や山火事の被害が増加しています。問題解決に向けて2015年には世界の国々がパリで集まり、産業化以前から世界の気温上昇を2℃に抑える、更に1.5℃に抑える努力をすることが「パリ協定」で合意に含まれました。しかし、今年2018年の10月8日、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、現在の取り組みより大胆な行動を起こさない限り気候変動を食い止める可能性が非常に厳しいことを世界に公表しました。気温上昇を1.5℃未満に抑えるためには世界のCO2排出量を2030年までに45%削減、そして2050年までに排出量を「実質ゼロ」にする必要があるとされています。

「温暖化問題は、エネルギーとお金の流れ、そして市民の力」
188か国以上に広がる350.orgのムーブメント


-台風が激しさを増し自然災害が増えていることからも、私たちの生活に危機が訪れていることを感じますね。350.orgはそれに対してどのような活動を行っていますか?
(古野)まず、350.orgは組織と言うより気候変動防止を求めるムーブメントなのです。このムーブメントは世界中の草の根運動から立ち上がったもので、本部はニューヨークにあり、世界188か国以上に広がるネットワークと連携をしながら活動しています。気候変動問題という世界規模の問題を解決するためには、国境を越えたムーブメントが必要なのです。なぜなら、気候の大きな変化の原因は、人間の活動にあるからです。これ以上、石炭、石油、天然ガスを含む化石燃料インフラ計画は言語道断で、可能な限り早期に100%自然エネルギー社会にシフトしなければいけません。その実現に向けた取り組みを急ぎ行う必要があります。温暖化問題は、エネルギーとお金の流れ、そして市民の力の問題です。そのため、350.orgでは投資・財政支援などの化石燃料産業への支援を断ち切り、それらの支援を持続可能な自然エネルギー開発や省エネの支援へシフトするよう、関係機関に働きかける「ダイベストメント」キャンペーンを世界中で行っています。北米から欧州、オーストラリアへと広がったダイベストメント運動は、アジア、ラテンアメリカ、アフリカ各地において急速に広がっています。現在世界76ヶ国の992もの企業や団体,約6万人の個人が化石燃料投資のダイベストメントを宣言しており、 その運用資産額は、総額7.2兆米ドル(約820兆円)を大幅に上回っています。


ドイツ ベルリン


アメリカ ニューヨーク


オーストラリア メルボルン


ベトナム

COP21アースパレードに向けた日本での巻き込み力


-お金の流れを変えることでCO2を排出する化石燃料関連事業の遂行を妨げるのですね。社会を変えていくのは、多くの市民の声=ムーブメントに他ならないと思います。ところで、日本での350.orgはどのように活動が始まったのでしょうか。
(古野)脱炭素社会を導くために、アジアは重要な地域と考えられていました。日本の活動を行う事務所を立ち上げようと声がかかり、2015年4月に始めました。2015年12月のパリCOP21に向けてマーチを行う計画があり、これを日本で盛り上げようということがきっかけです。12月までに人を集めなければいけないということで、社会問題を扱うセミナーやイベントに出席してみました。するとオーディエンスに若い人はあまり見られませんでした。350.orgは、一般人向けの温暖化に関する本を執筆したビル・マッキベンと大学生グループが立ち上げた団体です。ムーブメントを起こすには若い人も必要です。そのためにはどこか楽しい要素がないと。真面目な正論はもちろん大事ですが、いつも真面目では一部の人にしかリーチできません。「楽しくて真面目」なこと、そしてアートなど違う魅力から入って来られる窓口をつくろうと考えました。
そして、デザイナーに作品を募集したポスターのデザインコンペ、キャラクターの「地球人間アースマン」、ファッションブランドとコラボしたTシャツの展示会、フリーハグ、上映会などを行いました。そして、「関心があったけれど動けなかった」魅力的な仲間たちが集ったのです。COP21のマーチは日比谷で他の環境団体などと協同し、東京で1,000人、京都で500人が集まりました。TVのニュースや多くの新聞で取り上げられました。





-素晴らしい立ち上げですね。ここで、ボランティアで活動されている小野りりあんさんにお話を伺いたいと思います。小野さんはモデルとして活躍されていますが、350.orgの活動に参画されたきっかけは何でしょうか?


(小野さん・以下敬称略)もともと家族が社会的課題に対する意識が高かったのですが、特に母の友人で熱心な方がいて、世界の状況についてよく話を聞いていました。そこで使命感は感じていたのですが全ての時間はかけられないので、活動している人を支援したいと思っていました。国際環境NGOグリーンピースや国際人権NGOアムネスティ、Sea Legacyの活動などに注目して、Avaazで署名したり寄付したりしていました。そしてAvaazのメーリングリストで2015年のパリ協定に向けた「アースパレード2015」を知りました。「世界的に行われるパレードが日本でもあるんだ!」と知り、参加しました。350.orgでの最初の活動であり、私の初めてのアクションでした。「地球人間アースマン」や面白い人たちがいてとてもエネルギッシュ!何よりも、「同世代で関心のある人がいた!」ということでとても感激しました。モデルの仕事の場では、社会問題の話はしていなかったのです。

-元々想いがあり、活動しやすい場に自然に出会ったのですね。それからの活動はどのようなことをされましたか?
(小野)350.orgのスタッフとイベントを計画し、まずは近い方々からと思いホームパーティを行いました。
関心がありそうな友人に声をかけて、勉強会という固い雰囲気を避け、自然と楽しく環境問題について話し合えるような場にしました。 350.orgの理念に「問題解決の為にはみんなが動いていかなければいけない」ということがあります。海外では完全にオープンソース。素材をネットで得て、誰がどこで始めても良いのです。「350.orgは組織でなくムーブメント」とはそういう意味なのです。目標が一致すればとりあえずやっていこうという、イノベーティブな考え方です。そのような環境なので、ボランティアですが主体的に動く事ができます。年代はバラバラですが温かい雰囲気。私の興味のあるアートの分野では、キャンペーンロゴデザインなどに関わっています。

化石燃料関連産業から資金を引き上げる「レッツ、ダイベスト!キャンペーン」
まずは事実を「見える化」


-古野さんと小野さんのお話から、ムーブメントの広がっていく様子がよくわかります。日本での「レッツダイベスト!キャンペーン」について教えて下さい。
(古野)日本でも世界的に広がりを見せるダイベストメント運動を普及させるために、「レッツ、ダイベスト!」というキャンペーンの活動に取り組んでいます。ダイベストメントはインベストメントの逆で、「資金を引きあげる」という意味です。地球温暖化を加速させる化石燃料産業から資金を引き上げ、再生可能エネルギーや社会貢献に力を入れる企業に資金を移行することを目指しています。
自分のお金が環境を悪化させることに使われているとしたらどう思いますか?日本ではその危機感があまり無く、その投資先にも興味が薄いようでした。そもそも年金基金や金融機関も融資先や投資先が不透明なので、専門機関に依頼して調査から始めました。調査の結果、大手銀行から多くの化石燃料関連企業に資金が渡っていることがわかりました(表1)。これを2016年8月に初めて発表し、2018年9月に最新版を公表しました。
化石燃料関連事業が資金を得るということは大きな問題なのです。一つの例として、現在、兵庫県神戸市で既存の発電所に加え2つの新しい大規模石炭発電所の建設計画があります。パリ協定に規定されているように、温暖化を1.5℃~2℃以下に保つためには、新しい石炭火力発電所を建設することはまずありえません。むしろ既存プラントの段階的廃止が必要なのです。しかし、今の日本の政治や法制度では建設は止められません。他の先進国は「脱石炭」へ舵を切っている中、このよう方針は非常に厳しく評価されます。みずほフィナンシャル、三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJは上位TOP3の債権者であり石炭火力発電所の開発に使用された資金の約62%を提供しています。金融機関はパリ協定後も国内の石炭開発に従事する企業への融資を拡大することによって問題を大きくした点に責任があると言えます。



これらの調査に基づいて、去年9月に預金者1,000人の署名を集めて大手銀行7社に地球環境に配慮した銀行業務を求める意見書を提出しました。これに対し6社から回答がありましたが、納得のいく回答はありませんでした。大手銀行にさらなるプレッシャーをかけるために、化石燃料や原発に資金を提供する銀行からお金を引き揚げ、これらの事業に投資や融資をしない「地球にやさしい銀行」に口座を乗り換える事を促す「レッツ、ダイベスト!」キャンペーンを去年11月に開幕しました。年内までに100人の個人と5団体のダイベストメントを目指して、12月に行った「ダイベスト・デイ」にはメガバンク3社の前でデモを行い、TVのニュースで取り上げられました。その後一部の銀行とは意見交換会を行っています。2018現在は173人の個人と14団体のダイベストを達成しました。【詳しくはwww.letdivest.jp から確認できます】


一方、化石燃料や原発のように地球環境を破壊するビジネスに支援していない「クールバンク」を応援するアクションも行っています。「化石燃料や原発に支援をしていない」と明確に宣言した銀行に「COOL BANK AWARD」賞を贈呈し、SNSなどで告知し応援しています。



「とりあえず、やってみる」
新しい概念や文化を創造するためには、まずはアクション


-データを元に働きかけて説得力がありますね。更に多くのダイベスト実現に向けて人々を巻き込んでいかなければいけませんね。日本のムーブメントを起こすにあたってその課題やプロセスについて教えて下さい。
(古野)まず課題なのですが、欧米ではまず「市民社会」という概念が広く浸透しています。もともと文化としてあり、自分たちがやれば変えられるという気持ちが既にあるのです。それに比べて日本では、「自分たちが社会を変えていこう」という発想が薄いように思います。そこを超えるのに大きなバリアがあって、難しい。
「レッツ、ダイベスト!」は経済社会のお金の流れという奥が深い課題で、かつ不透明です。自分の預金がどこに使われているかを意識して頂くには、とにかく「見える化」が大事。大学の講演などで「エシカル金融」などの言葉を使って広く伝える機会を得て告知しています。一方、個人を対象にホームパーティやビデオ上映会なども行っています。またショートムービーの作成にも取り組んでいます。まずは「ATMの向こう側:私の預金は何処へ?」(https://m.youtube.com/watch?v=EdSb6maZhPM)を作りました。お金を口座に入れるとその瞬間穴があいて今まで見てなかった世界に行く。良くないことにお金が使われていたらそこから引き揚げなければと。そして気候変動の事実として東京の熱波、西日本の豪雨、沖縄の珊瑚の白化現象、農地への影響などのストーリーです。事実を知って危機感を実感してほしい。自分の預けたお金がどう使われて地球がどうなってしまうのか意識してもらうために、興味深い映像などのツールを作ります。
一方、ボランティアスタッフを対象としてセミナーを行います。上映会を誰もが単独で行える「ダイベストコミュニケーター」の育成を行います。

-まさに、環境問題において最前線の文化を創造しているのですね。小野さんはどのように関わって行かれますか。また、今後のご自身の活動のビジョンは?
(小野)私は学生向けのセミナー企画を担当しているので、より魅力的にメッセージを発信できる機会を多く作っていきます。私たちの暮らしにとって必要でとても大切なことだと認識しています。また、350.orgを通して出会った人から色々なことを学んでいます。プラスチック問題や畜産業の環境負荷など世の中は課題が多いです。ゼロウエイストやビーガン的食を選択するなど様々な手法を学び、どう発信していけるか、どのようにしたら身近に感じてもらえるのかアプローチを考えています。キャッチーで楽しいエネルギーが漂う発信場をつくりたいと思い、個人的な活動としては、サステイナブルな社会を目指す友人と共に環境に関する情報をしっかり面白い形で届けるウエブサイト「スパイラル クラブ」を製作中です。まずはほとんどの人が内容よりも印象で動いていると感じるので、入口をオープンにして、それからどんどん掘り下げていけるようなウエブサイトを目指しています。

-小野さんの存在はとても心強いですね。古野さん、最後にカルチュラル クリエイティブズとして、皆さんにメッセージをお願いします。
-貴重なお話をありがとうございました。 「とりあえず、やってみる」ご自分の揺るがぬ思いから、アクションを次々と起こして来られた古野さんの言葉は説得力があります。巻き込み力を課題とされている方も勇気づけられたと思います。また、気になっているけどまだ何もしていないという方は多いのではないでしょうか。今こそ文化や社会の変化を創造する人へ。これを機会にぜひ350.orgの活動に参画されてはいかがでしょうか。

(聞き手) 宍倉 栄 編集:宍倉 栄
(写真) 大宮 雅智

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